2025年6月、札幌で『ふれる』アトリエふわり春展”と”を3日間、開催しました。

期間中、きよみさんとアトリエふわりデザイナー鈴木ひろみさん(以下ひろみさん)と一緒に、ごはんを食べに行く機会がありました。
『きよみさん、本気出してみたら』
ひろみさんから贈られた”本気”という言葉。きよみさんはどのように受け取ったのでしょうか。
「今までも本気でやっているつもりだったけれど、さらに妥協しないベストを尽くすというか。今まではできたらで良いよと言われていたから、できたらで良いかと思っていたけれど、やれる限りできる限り努力をするということなのかなと思っています。」
最優先とは違うのですか?
「刺繍が最優先なのは大前提の上で、さらに妥協しない。それまでは自然体でいるとか心地良さを大事にするとか肩に力が入っていない、無理をしないことが良いと思っていたんですよ。でもやっぱり勝負どころでは、本気を出さなくちゃいけないと思いました。」
それから日常ではどのような変化がありましたか。
「刺繍に一番時間を使うために、やらないことを増やしました。7月、 8 月はアルバイトが繁忙期で、今までだったら週5日フルタイムで働いて、雇われ店長のような立場も担ってきました。それもちょっと勇気を出して土日だけにしてほしいと相談して。別件の仕事が詰まっているのでと正直に本当のことを伝えたら、わかってもらえました。」
「あとは暮らしも好きだからあれもこれもと手間をかけていたけれど、何でもかんでも手間をかけるのはやめて、もうちょっとミニマムにしようと思いました。自炊はシンプルにご飯と味噌汁とおかず一品にして。畑はほったらかしで草がぼうぼう、近所の人はどん引きだろうなと思ったけれど、それでも実ってくれたものをありがたく頂いて。なんでもかんでも手間をかける時間は無いなと。来年は畑をもうちょっとマシにしたいです。」
その後”融けるまで着たい服”も生まれていますが、刺繍に対する気持ちの変化はありましたか。
「大学生の頃を思い出しました。 あの頃は刺繍が最優先で、余計なことを考えずに好きなことに夢中なのが当たり前だったんです。
でも大人になって社会人として働くようになるとと変に賢くなって『こうした方がいいんだろうな』とか『こうするのが大人として好ましいだろう』というのを考えるようになっていました。もう大人だしって。」
畑も近所の人の目があるから、ちゃんとしなきゃとか?
「そうそう。若い時はもっと考えていなかったですよね 。これが好き!楽しい!これやりたい!それだけ。周りもみんなそうだったのを思い出しました。」
今はその感覚が戻ってきているということですか。
「すごい図々しいけれど、二十歳ぐらいの気持ちです。」

二十歳の気持ちで進んだ2025年の後半は「融けるまで着たい服」を軸に新しい挑戦が続きます。クラフトフェアへの出店、モデルさんを迎えプロのカメラマンによる撮影も行いました。
「色んなことを本気でやっているうちに、初めてのことも何個か立て続けに経験して気づいたことがあります。それは自分がすごく小心者なんだということ。割と楽観主義だから、なんとかなるだろうと全く石橋を叩かないでひょいひょい渡り始めるけれど、やり始めてからどうしようとなるタイプだってことがわかりましたね。始まってから動揺する。」
とりあえず石橋には乗っちゃう?
「楽しそうな対岸しか見えていなくて、 大丈夫だろうとなにも確かめずに行ったら、結構ガッタガタだったみたいな。」
きよみさんを見ているとガッタガタでも乗った石橋は渡りきり、思ったように渡れなくてもその行動が次へと繋がっているように感じます。
クラフトフェアの参加や写真撮影は、今までもやろうと思えばできたことだと思います。今年挑戦しようと思えたのはなぜでしょうか。
「やっぱりそれもひろみさんに本気出してと言ってもらったからだと思います。6月のイベント最終日に開催された、ひろみさんのお話会で『融けるまで着たい服』の話をしました。何年も前から考えていたのですが一度も人に話したことはありませんでした。でもあの時に話を振られて話してみたら、 めちゃくちゃいいねと言ってもらえて。じゃあやってみようかなと思えたので、ひろみさんのおかげです。」
ひろみさんからの『本気出してみたら』は、ふわりのお洋服への刺繍だけではなく、きよみさんの刺繍作家としての活動全体を想い仰っているように感じました。
「そうだと思います。額に入った作品や平面作品をもっと作らないの? 絶対好きな人いると思うよと言ってくれて。今年(2025年)はずっとお洋服に刺繍をしてきて、実際にお洋服を着ている人を見たときにゾワーーとして、今まで感じたことのない感動がありました。もう何回もゾワーーとしてすごく楽しかったです。でも平面作品じゃないとできないこともあるなと感じたので、3月に向けて平面の作品を作っています。」
今は3月の個展に向けて、刺繍をしていらっしゃるのですね。
「はい、今頑張っています。 夏、秋とずっと自分を追い込んでいたから、 今はすごく楽しくやっています。もう一度エスキスさん(CAFE ESQUISSE)に行くのも、北海道に行くのもすごく楽しみです。」
個展はテーマを先に決めますか?作品を作っていく過程で決まっていきますか?
「昔はテーマを決めてから刺繍をした時もありましたが、今は全く決めていないです。エスキスさんに行って場所を見たので、ここはこういう風にしようかな、ここにはこのくらいの大きさの作品があったら良いなとは考えるけれど、個展の案内を作りますとなったらタイトルを決めようぐらいのイメージです。」
もう少し個展について聞いても大丈夫ですか。
「ひろみさんが『きよみさんの刺繍は”祈りだから”』と言ってくれました。自分では思ったことはなかったけれど、そうなのかもしれないと思って。ひろみさんが最初に良いねと言ってくれた作品は東日本大震災が起きて『祈ることしかできなかった時』に刺した作品です。」

きよみさんは宮城県のご出身、当時はすでに新潟県で暮らしていましたが、ご家族は地元に住んでおり連絡を取るのが難しい状況が続きました。
「何もできない、どうしようという気持ちから、本当に祈ることしかできませんでした。そのどうすることもできない気持ちが刺繍をやっていると、ちょっと落ち着くんです。戦時中の千人針もこういう気持ちだったのかもしれないと思いましたね。刺繍をして何になるのだろうと思っていたけれど、本当にそうすることしかできない、こういう気持ちだったのかもしれないと。今回の展示はそういう作品になる予定です。こんなザックリした感じで大丈夫ですか?」
はい、今はそこまでで大丈夫です。
次回は、きよみさんにとって刺繍がどんな存在なのかをお聞きしていきます。
(取材日:2025.11.25)
【ゆうききよみ】
刺繍作家。新潟県十日町市在住。雪国の暮らしの中で、日々の景色や心が動いた瞬間を刺繍で表現している。
新潟や東京で個展を開催するほか、アトリエふわりとのコラボレーション作品を発表。
新潟では定期的に刺繍教室を開き、仲間と共に無心になれる時間を大切にしている。
高校時代の夢はファッションデザイナー。さまざまな刺繍作品の制作を経て、自然と“服づくり”へと戻ってきた。2025年より、新プロダクト「融けるまで着たい服」を始動。
2026年3月下旬から約1か月、札幌で個展の開催を予定している。
▶︎CAFE ESQUISSE(札幌での個展開催予定場所)


