【ゆうききよみ】
刺繍作家。新潟県十日町市在住。雪国の暮らしの中で、日々の景色や心が動いた瞬間を刺繍で表現している。
新潟や東京で個展を開催するほか、アトリエふわりとのコラボレーション作品を発表。
新潟では定期的に刺繍教室を開き、仲間と共に無心になれる時間を大切にしている。
高校時代の夢はファッションデザイナー。さまざまな刺繍作品の制作を経て、自然と“服づくり”へと戻ってきた。2025年より、新プロダクト「融けるまで着たい服」を始動。
2026年3月中旬から約1か月間、札幌での個展開催を予定している。
衝撃のひと言
『仕事が楽しいんだったら無理して刺繍作品を作らなくていいんじゃないの』
3年前にきよみさんが言われた言葉です。当時は週5日美術館やギャラリーに併設されているレストランやカフェで楽しく働きながら、刺繍の活動をしていました。
「飲食のアルバイトもすごく楽しく働いていたので、自分にとって大事なことだと思っていたんですね。だから話をした時にどっちも素敵だと両方を応援してもらえると思っていたので『言われてどう思った』と聞かれた時に”びっくりしています”としか言葉が出てきませんでした。」
刺繍をやめることも本気で考えた京都滞在
この時は約10年ぶりの関西訪問。京都へ2泊する予定を立てていました。
「結果、2日間京都でずっとしくしく泣いてることになりました。『無理してやらなくてもいいんじゃないの』と言われたもんだから、刺繍を辞めることも本気で考えました。仕事が充実していて仲間にも恵まれて、パートナーもいて、住んでいるところが本当にホームプレイスだと感じていました。
当時、刺繍の創作活動だけが煮詰まっていたんです。それ以外のことは全部うまくいっていたんですよ。」
「無理して作品を作らなくても別に死ぬわけじゃない、そう思うと確かに言われた通りだなと思いました。そう思ったら、涙が止まらなくて。泣きながら、これは何の涙なんだろうと考えていたんです。」
刺繍と生きる
きよみさんが泣くのにも考えるのにも疲れた頃、気分を変えて楽しいことをしようと向かったのが高校生の頃から憧れていたブランド「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」の直営店でした。
「まるでギャラリーのような空間に並ぶお洋服を眺めて、デザイナーさんの本を買って帰りました。やっぱりすごい可愛かった。うっとりした気持ちでお店を出て、2、3歩歩いたところにちっちゃい可愛い花が咲いてたんですよ。それを見た瞬間に『わー、これ刺繍にしたい』と思ったんです。」

「さっきまで刺繍をやめることも考えていたのに、もう刺繍をやりたくなっていて。その時に『私は刺繍をやめることができないんだ』と気づきました。私の魂が本当に望んでいるのは刺繍をずっと続けること。魂が『やめちゃダメだよ』って涙で教えてくれたんだと思っています。
刺繍をやらなくても息をしているという意味では生きているのかもしれません。でも刺繍をしていない自分は生きていないのと同じだと思ったんです。帰ったらすぐに刺繍を始めようと、そのまま京都駅に向かいました。」

-後書き-
衝撃の一言を放ったのは誰?冷たい人なの?——
そう感じた方もいるかもしれません。
あの言葉の主は、私ときよみさんが出逢うきっかけにもなったオンラインコミュニティ〈Lifestyle Design.Camp〉の主宰であり、ニュージーランド在住の作家・四角大輔さんです。
実は、決して突き放したわけではありません。
その場に立ち会っていたコミュニティマネージャー志知純子さんが2人のやり取りを見ていて感じたことを教えて下さいました。
『元音楽プロデューサーとして数多くのアーティストを見てきた四角さんは、きよみさんの中に“唯一無二の刺繍作家”としての才能を感じ取っていました。
だからこそ、「仕事が楽しいなら、無理に刺繍をやらなくてもいいんじゃない?」という極端な言葉で、彼女の本気を試し、アーティストとして生きる覚悟を促したのです。』
その言葉をきっかけに、きよみさんは自分の中の“本当に大切なもの”と向き合い、刺繍の道を選びました。この一言こそが、彼女の人生を動かす“愛あるメッセージ”だったことを、最後に補足させてください。
nazeka 齋藤恵子(ケイティ)
▶︎Lifestyle Design.Camp HP

