前回のインタビューでも少しふれた”叫び散らかしたい気持ち”を刺繍した作品。
製作過程では「様々なことを思い出すしんどさと、出来上がったときのスッキリした気持ちがあった」と言います。今回はより詳しくその過程をお聞きしました。

いつ頃からこの作品を作り始めましたか。
「去年(2025年)の11月下旬ぐらいから始めて、12月、1月と作っていました。それなりのサイズの平面作品を作る時は3、4割ができあがるくらいまで『これ本当に大丈夫かな』という気持ちがあります。下書きもしないので全体像が見えず、ちょっとずつしか進まない。いつ終わるかもわからないから先の予定も立てられない。これほんとうに大丈夫かなって。半分ぐらいできてくるとなんとなく全体像が見えてきて『なんとかなりそう』と思えてきますね。」
これまでやってこなかった、叫び散らかしたい気持ちを作品にのせることは、今までとは違う葛藤や戸惑いもありましたか?
「なんて言ったら良いのかな…。」
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約1分、思案したその後に
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きよみさんが話してくださいました。
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「わたしのなかで、それより大事なものなんてこの世に何もないと思っていたものがあったんです。それより優先することなんて、それより尊いことなんて、この世になにひとつ無いんだって固く信じていたんです。そう思わないと、やれないぐらい辛かったんですよ。」
「でももうダメだ、やめようと思って。ただそう決めたものの、もうちょっと頑張れば良かったのかもとか、頑張っていたら違う人生があったのかもとか、ずっと思っていたんですよね。」
「あんなに辛かったのに、なんにも得られなかった。今までは努力次第でどうにかなる、頑張ればなんとかなるって思っていたけれど、どうにもならないことって本当にあるんだなと思いました。やめた後も、なによりも尊いと思っていた気持ちから抜け出せなくて、自分はこの世で一番尊いものが欠けているんじゃないかと思っていたのね。それでも人生に満足している自分は、もしかしたらめっちゃ冷酷な人間かもとか。そんなことないんだけど、今なら全部そんなことないよって思うけれど、当時はそう思っていたんです。」
ある人にその話をすると
「『きよみさん、それはギフトだから』って言われて。zoomで言われた時に本当にぶん殴りそうになって、叫び散らかしてやろうかなと思いました。我慢したけれど多分顔に出ていたから『今言われてムカついているかもしれないけれど、誰でもそういうことがあるんだよ、全部揃っている人なんていないよ』と言われたんです。」
「その時に一緒だった人たちのことを思い出したら、みんなそうだなと思ったんです。みんなよく今まで生きてきたな、すごいものを背負わされているな、なんでそんなことになったんだろうと思うようなことがあった。『それでも今、普通に生きてるじゃん』って。そこからちょっとずつ腐るのをやめようと思うようになりました。」
「でも折に触れて思い出すんですよ。話す機会がある度にやっぱり言うんじゃなかったって思うような反応が返ってくることも多くて。それに対してなかなか説明がつかなくて、言うのもしんどくて辛い。自分の中で上手く消化できていないから、落ち込んだり話題になる度に嫌だなと思ったりするのだろうなとモヤモヤした気持ちを抱えていました。」
「ある時『もうこの気持ちを叫びたい、うおーって言いたい』となったんです。モヤモヤしていることを布の上に全部出そうと思って。言葉にならない気持ちだから鉛筆でグルグル落書きするみたいに、ひたすら糸をこうチクチクチクチクやっていったのね。自分で見てもこれはなんだろうみたいな、これはどう着地するんだろうというものを何日も何日もやっているうちに1ヶ月くらい経って。それでも続けていたら2ヶ月くらいでやっと形になって、自分で悪くないなって思えたんですよ。」
悪くないな?
「そう悪くないなって。今までずっと思っていたこととか、マジでどうでもよくなってきて、もういいんじゃない別にって。『もういいかなと思ってもいいかな』って思えた。
もういいかなと思うことも、ダメな気がしていたんですよ。大事なことだから、そう簡単にまあいいかって思ったらダメかもって。でも泣きながら話している方を見て(前回のインタビュー参照)、しょうがないじゃん、だってその時は一生懸命やっていたんだから。絶対幸せを願っていただろうし、一人で一生懸命やってまさかこんな結果になるなんて思ってもみないでやっていたわけでしょ。誰でもそういう上手くいかなかったことや後悔することがあるのかもしれない。それは過去の汚点なんてことは絶対ないし、自分も含めて肯定してあげていいんじゃないかなって。すごく後悔することがある人にも『いいんじゃないですか、それはそれで』って言ってあげたいなと思いました。」
“もういいかなと思ってもいいかな”という感覚わかるなと思って聞いていました。なんでしょうね、自分のなかでなにか守っているんですかね?
「それをまあいっかっていうにはまだちょっと矛盾があるというか。自分のなかで納得できていない。過去の自分が絶対一番大事なんだって強く思っていたから、それを軽やかにサクッと変えられない。
やっぱり時間が必要なことってあるんだなぁと思いますね。」
きよみさんは刺繍をすると無心になるけれど、その出来事を忘れるわけではないですよね。刺繍をすることで、もういいかなと思えたのはなぜでしょう。
「わたしもまだよくわかっていなくて、上手く説明できないんだけど、なんかこう出し切れた感じがしたの。出来上がった時に布の上にバッて全部出し切れた感じがしたんですよね。それでなんかもういいかなぁと思えた。」
「それからはその話題になっても普通に話せて、今までとはちょっと違うなと感じています。自分の気持ちが違うからフラットに返せて、相手からもフラットに返ってくる。」
今、叫び散らかしたいものは無くなったのでしょうか。
「そうですね、概ね大丈夫ですね。今は、うん、大丈夫です。また来たら、それはそれだしと思っています。」
(取材日:2026年2月8日)
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ゆうき きよみ 刺繍作品展
「深い深い絲の森」
会期:2026年3月26日(木)〜4月20日(月)
場所:CAFE ESQUISSE
(北海道札幌市中央区北1条西23丁目1-1 メゾンドブーケ円山1F)
札幌にてはじめての展覧会。
これまでの絵本原画と新たな作品を展示いたします。雪国から雪国へ、深い絲の森をひらきます。(展示案内文より)
HP https://cafe-esquisse.net
会期中のお休みなどはお店のInstagramをご確認ください。
【ゆうききよみ】
刺繍作家。新潟県十日町市在住。雪国の暮らしの中で、日々の景色や心が動いた瞬間を刺繍で表現している。
新潟や東京で個展を開催するほか、アトリエふわりとのコラボレーション作品を発表。
新潟では定期的に刺繍教室を開き、仲間と共に無心になれる時間を大切にしている。
高校時代の夢はファッションデザイナー。さまざまな刺繍作品の制作を経て、自然と“服づくり”へと戻ってきた。2025年より、新プロダクト「融けるまで着たい服」を始動。
2026年3月下旬から約1か月、札幌で個展の開催を予定している。
Instagram
https://www.instagram.com/yukikiyomi_embroidery?igsh=MTg2cngwM3M0cHM2eg==